HRTについて

1. HRTとは

HRTとは、ホルモン補充療法のことです。
女性ホルモン(エストロゲン)が減少して起こる症状や病気に対し、外からごく少量の女性ホルモンを補充することによって、更年期症状を改善させたり、女性ホルモンの減少や加齢による病気を予防する効果があります。HRTは原因に基づいた標準治療です。

子宮のある人とない人では、使用法に違いがあるので確認が必要です。

図解

2. HRTを行う目的

  • 更年期障害・症状を楽にする
  • 病気の予防(骨粗鬆症・脂質異常症・動脈硬化・うつ病など)
  • 健康増進(もっと元気に)
Point

日本では、病気の治療にのみ健康保険が適用されるため、②③での実施は、基本的に自費での診療です。

3. HRTに対する国際的な評価

更年期障害・症状に対するHRT

5年以内の使用や、60歳未満で開始する場合・閉経後10年以内に開始する場合では、副作用よりHRTの効果が上回ります。3)

病気の予防・健康増進に対するHRT

使用する期間は、目的により異なります。HRTの効果と副作用を個別に評価して、続けるかを決めます。3)4)

Point

HRTは始める年齢や実施する期間や投与法によって、薬から得られる長所(有益性)や短所(副作用・危険性)が違います。

HRTを受ける前に

1. HRTと他の治療法

代表的な治療法と対処法について説明していきます。

代表的な薬物治療の特性

代表的な治療法にはHRT・漢方療法・向精神薬があります。
下記の表を見て特性を知りましょう。

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  HRT 漢方療法 向精神薬
長所
  • 更年期症状には有効
  • 骨粗鬆症や脂質異常症、動脈硬化への予防効果がある
  • 副作用が少ない
  • 種類が豊富である
  • 1剤で幅広い対応ができる
  • 対象となる症状に有効性が高い
  • 1〜2ヶ月間であれば副作用を気にせず服用できる
短所
  • 副作用がある
  • 長期使用でリスクが上がる
  • 効果を自覚しづらい
  • 証(体質)の決定が必要
  • 粉末で飲みにくい
  • 服薬への心理的抵抗感や依存性がある
  • 薬の飲み合わせに注意が必要

代表的な薬物治療の有効性

代表的な治療法がどのような症状に有効なのかを把握しましょう!

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  HRT 漢方療法 向精神薬
血管運動神経系症状 のぼせ・ほてり
腰・手足の冷え ×
息切れ・動悸
精神神経系症状 寝つきが悪い・眠りが浅い
起こりやすい・イライラする
くよくよしたり憂鬱になる
疲れやすい ×
気力の低下 ×
身体的症状 肩こり・腰痛・手足の痛み ×
頭痛・めまい・吐き気
肌の乾燥・肌荒れ ×
抜け毛 ×
骨量減少 ×
動脈硬化 ×
泌尿・生殖器症状 性交痛・腟の乾燥・痛み ×
過活動膀胱

更年期症状・障害に対する薬と薬以外の対処法について理解する

腟の乾燥・性交痛の薬
  • 腟の保湿剤
  • 性交時の潤滑剤
    (病院やネット上で購入可)
  • エストロゲン腟錠
骨量減少への予防薬
  • カルシウム剤
  • 活性型ビタミンD3剤
  • SERM製剤
  • ビスフォスフォネート製剤
脂質異常症の薬
高血圧症の薬
薬以外の治療法:カウンセリング
  • 長所
    悩み・不安など、心理的背景をもつものに効果が高い
  • 短所
    治療へのモチベーションを保つのが難しい
薬以外の対処法

サプリメント・ハーブ・アロマテラピー・マッサージ・鍼灸・ヨーガ・リフレクソロジー・化粧セラピー・瞑想など

生活で心がけること

食事・運動・休息・健康情報を集める・健康について専門家に相談する・家族友人との付き合いの充実・趣味やレジャーを楽しむ

Point

これら全ての治療や、その他の対処法は、必要に応じて組み合わせることで、より高い効果が得られます。

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2. HRTで使用する薬の種類

基本的には飲み薬、貼り薬、塗薬があります。
必要に応じて別の種類の女性ホルモン剤(注射や腟錠)も使用します。

HRTを検討する上でどのような女性ホルモン剤(エストロゲン)があるのか知っておきましょう

女性ホルモン剤(エストロゲン)の種類
  • 画像飲み薬
  • 画像貼り薬
  • 画像塗り薬
必要に応じて使用するホルモン剤

注射
・女性ホルモン注射
・男女混合ホルモン注射

腟錠
・坐薬

Point

子宮がある人とない人では、処方が変わってきます。
子宮がある人は、女性ホルモン剤(エストロゲン)に加えて黄体ホルモン(錠剤)も内服します。
2剤が組み合わさった薬もあるので、使用法については確認してみましょう。

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3. HRTを始めるタイミング

「更年期の年齢」であることや、「月経の状態」、「自覚症状」で見立て、婦人科を受診して卵巣機能の状態を血液検査で確認し、エストロゲンやFSH(卵胞刺激ホルモン)の数値をもって総合的に判断します。
目安:『E2(エストロゲン)=50pg/ml 』かつ FSH(卵胞刺激ホルモン)=40mlU/ml

Point

閉経前後は、ホルモン値の変動が激しいので、数値を満たしていなくても治療を開始することがあります。
日常生活に支障をきたすような場合は、医師に相談しましょう。

4. HRTの選択について

HRTを受けた場合と受けなかった場合の、更年期症状や起こりうる病気の違いについて知っておきましょう。

初めて受ける場合

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更年期症状 HRTを受けた場合 HRTを受けなかった場合 比較して言えること
のぼせ・ほてり4) 開始後すぐに、10,000人あたり、7,670人が楽になる。 1年後、10,000人あたり、5,170人が楽になる(からだが閉経したという状態に慣れる)。
  • HRTを受けると、7割強の人が楽になるが、2割強の人は開始すぐには楽にならない。
  • HRTを受けないと、5割弱の人の症状は続いている。
寝汗5) 改善する 改善されない
  • HRTを受けると、左記の症状はほとんど改善される(改善度には個人差がある)
  • HRTを受けないと、左記の症状は続いていく。しかし、対症療法で楽にできるかもしれない
睡眠障害6)
抑うつ症状7)
尿もれ8)
性交痛・腟の
乾燥や痒み9)
関節痛10)
皮膚コラーゲン量の
保持保水効果11)
増加する 減少する
骨量12) 維持・増加する 急激に減少する
動脈硬化 進みは遅れる 進む
乳がん13) 10,000人/年あたり30人程度 5年以内であれば、発生率は変わらない

HRTを5年以上続けた場合

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更年期症状 HRTを受けた場合 HRTを受けなかった場合 比較して言えること
総死亡率15) 変わらない
(閉経後10年以内にHRTを開始すると減る)
 
心臓血管疾患14)15) HRTの開始年齢によって異なる
閉経後10年以内または60歳未満の開始の場合、HRTを受けた方が減る
 
10,000人/1年あたり
大腸がん13) 10人 16人 HRTをすると10000人中6人の割合で減る。
大腿骨頸部骨折13) 10人 15人 HRTをすると10000人中5人の割合で減る。
乳がん13) 38人 30人 HRTをすると10000人中8人の割合で増える。
血栓症13)
(血管の詰まり)
34人 16人 HRTをすると10000人中18人の割合で増える。
脳卒中13) 5.4人 3.2人 HRTをすると10000人中2.2人の割合で増える。

数値の場合、10,000人/1年あたり

大腸癌、大腿骨頸部骨折、乳がん、血栓症13)のデータは、アメリカのWHI(Women's Health Initiative)による大規模研究の結果です。対象女性の平均年齢が63歳で、喫煙者、肥満者(平均BMI 28以上)が多く含まれていました。日本人女性が50歳でHRTを開始した場合には、これよりも良い結果が出ると推察されています。

 これらは海外での研究結果であり、確立された根拠に基づくものです。そのまま日本人に当てはまるわけではありませんが、日本でも参考にされているデータです。一部についてはホルモン補充療法ガイドライン2017年版(日本)を参考にしています。

 エビデンスの選択は、ガイド独自のものであり、他にも多様な異なるエビデンスが存在します。そのため、医療者間でもHRTへの賛否両論があることを知っておきましょう。

HRTを受けた場合と受けなかった場合で、日々の暮らしについて比較してみる

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  HRTを受けた場合 HRTを受けなかった場合
日常生活 ホルモンレベル 一定に保たれ、快適に生活できる 下がったままで更年期の症状に悩まされる可能性が高い
更年期の症状 和らぐ。
しかし、HRTでカバーできない更年期症状に対しては薬や健康食品等を利用するかもしれない
和らいでいない。
それぞれの更年期症状に対して、薬や健康食品等を利用するかもしれない
血管や骨 ホルモンに守られている ホルモンに守られていない
肌の調子 良いと感じられる 良いと感じないかもしれない
性交時の痛みや腟の乾燥・痒み9) 和らいでいる 和らいでいないかもしれない
尿もれ 落ち着いている 落ち着いていないかもしれない
胸の痛み17)や張り 感じることがある 感じることはない
おりものの増加 下着が汚れるかもしれない 下着の汚れを感じることは少ない
思いがけない出血18) あるかもしれない ない
継続について いつまで続けるか迷う いつまで続けるか迷うことはない
からだの変化について やめた後のからだの変化が気になる HRTによるからだの変化は気にならない
薬の副作用について HRT以外の薬を使うと、その副作用を感じるかもしれない 症状を楽にするために、対症療法を行い、その薬の副作用を感じるかもしれない
通院について HRTのために定期的な通院が必要 対症療法のための通院が必要になるかもしれない
費用 HRTの費用 かかる かからない
更年期症状に対する費用 HRTでカバーできない更年期症状に対して、薬代や健康食品代がかかるかもしれない それぞれの更年期症状に対して、薬代や健康食品代がかかるかもしれない
交通費 HRTで通院する往復の交通費がかかる 対処療法で通院する往復の交通費がかかる
Point

HRTをしていても、必要に応じて他の薬を使用することがあります。
HRTは全身に良い作用をもたらしますが、必ずしも全てが改善されるわけではありません。

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受診する

1. 婦人科を受診する場合

どのような流れで診察が進むかを知り、不安を減らしておきましょう。
1) 診察の流れ
2) 必要となりうる検査内容を知る
オプション(できるならした方が参考になる検査)

診察の流れ

  • 1)問診:HRTを行う目的を明確にする(何のためにするのかを決める)
  • 2)必要な検査を受ける
  • 3)HRTの使用法と種類を考える(自分の好みや意向を大切に)
  • 4)医師と相談して治療法を決める

必要となりうる検査内容を知る

  • 1)身長、体重、血圧
  • 2)血液検査
    (女性ホルモン値、肝機能、脂質、腎機能、血糖、凝固系、甲状腺ホルモンなど)
  • 3)子宮頸がん検診・子宮体がん検診(超音波も含む)・乳房検査
オプション(できるならした方が参考になる検査)
  • 骨量測定
  • 動脈硬化度測定
Point

HRTを行う場合は、少なくとも、これらの検査を1年に1回程度行い、医師と話し合いながら継続するかを判断します

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2. 保険診療と自費診療

保険診療と自費診療の違いを知りましょう。
自分の症状や期待することによってどちらかを判断しましょう。

  保険診療 自費診療
長所
  • 治療費が安い
  • 自宅近くにあることが多い
  • (予約が前提のため)待ち時間がほとんどない
  • 話をゆっくり聞いてもらえる
短所
  • 待ち時間が長い
  • 話をゆっくり聞いてもらえないことが多い
  • 治療費が高い
  • 自宅近くにないことが多い
1ヶ月の費用
  • 診察代+検査代+薬代(約3000円前後)
  • 往復の交通費
  • 診察代+検査代+薬代+健康管理費(約15000円前後)
  • 往復の交通費

※施設によって異なるので、要確認

受診頻度 1〜2ヶ月に1回程度
※施設の医師の考え方による
3ヶ月に1回程度
※施設の医師の考え方による
所要時間 診察時間(5分程度)
+待ち時間
+往復の通院時間
診察時間(カウンセリングを含む)(30分程度)
+待ち時間(ほとんどない)
+往復の通院時間
続ける期間
  • 試し飲みをする場合、1〜3ヶ月程度
  • 目的を明確にして、1年ごとに医師と相談する
  • 実施する場合の目安は5年以内
  • 自分の意思でいつでも止め、いつでも始めることができる
  • 実施期間の目安はない
  • 自分の意思でいつでも止め、いつでも始めることができる

ホルモン剤が身体に合っているのか、現在の症状がホルモン剤で楽になるかなど、その症状が更年期由来のものなのか1~2か月間試しに使用してみることを指します。

Point

40歳半ばを過ぎると、5〜9割の女性は何かしらの更年期症状が出てくるため、多くの女性は健康保険を使用して診察が可能です。
(診療の質は病院によって異なるので、いくつか検討するのも良いでしょう)

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